フランス・ギャル 『フランス・ギャル』
2013.12.27
フランス・ギャル
『フランス・ギャル』
1975年作品
フランス・ギャルは1947年10月9日生まれ。本名はイザベル・ギャル。父親は高名な作詞家ロベール・ギャルである。1963年にデビューし、1965年のユーロビジョン・ソング・コンテストでセルジュ・ゲンズブールが書いた「夢見るシャンソン人形」を歌って優勝。ヒット曲を連発して大スターになったのは周知の通り。その時のインパクトがよほど強烈だったのか、日本でのフランス・ギャルのイメージは「1960年代のロリータ・アイドル」で止まっている。ただし、ここまでは彼女のキャリアの「第一部」にすぎない。
1970年前後、アイドルから大人の女性になり、一時低迷していたフランス・ギャルは、ミシェル・ベルジェにプロデュースを依頼。1974年5月リリースの「愛の告白」(原題「LA DECLARATION D'AMOUR」)で評価された。こうして年上の人たちの手を離れ、同い年の音楽家と一緒に作品を作り(2人は恋に落ち、1976年に結婚した)、フランスで人気を取り戻してからが「第二部」である。
新たなスタートを告げる記念碑的作品であり、愛の結晶でもある『フランス・ギャル』は、名曲揃いの贅沢な内容である。フランス・ギャルの歌声には10代の頃の舌足らずな愛らしさが残っているが、何かを演じているような感じはない。ベルジェの詞と音楽に身を委ね、自分の感じたまま素直に歌おうとしている。その感情の脈動が美しい音楽となり、レコードに刻まれている。
1曲目は「新しい愛のはじまり」。性格の異なるメロディーを交互に展開させながら軽快にリズムを刻み、間奏でがらっと雰囲気を変えてみせる。レゲエっぽいアクセントがスパイスになっているのもポイント。歌詞は「私をここから遠くへ連れて行って」という内容で、当時のフランス・ギャルの心象を歌っているかのようだ。ちなみに、「新しい愛のはじまり」というのはアルバムの邦題でもある。
2曲目「今夜は眠れない」はやさしいギターの音色にのせて歌われる耽美的なバラード。「あなたがいないと眠れない」という歌詞で、フランス・ギャルの甘い声によくマッチしている。
3曲目「恋人はどこに」はちょっとアンニュイなラブソング。フランス・ギャルの声に絡みつく翳りのあるメロディーと揺れるリズムが印象的だ。
4曲目「わたしのお家」は多彩なサウンドスケープで魅了するナンバー。歌詞も「この地球は私の家」というスケールの大きな内容。ピアノを主軸にしているが、間奏ではロック色が強くなり、プログレのような様相を呈する。
5曲目「愛の告白」はフランス・ギャルの代表曲のひとつ。神秘的な雰囲気を持つ美しいラヴ・バラードで、語りを効果的にとりいれ、一途な愛を歌う。アレンジもよく練られていて、味わいはさらりとしているが余韻嫋々である。ここまでがA面だ。
6曲目は「サンバ・マンボ」。タイトル通りサンバの風味を盛り込み、電子音でデコレートしたサウンドの中、雲行きの怪しい恋模様が映し出される。
7曲目「ビッグ・ファット・ママ」はベルジェ流ブルースだが、フランス・ギャルの歌唱はあくまでも等身大。変に力むことなく歌詞に肉付けしている。
8曲目「仲良しになれたら」は切ないほど透明感に溢れた曲。雨の景色を眺めつつ、気になる人のことを考えている女性の姿が目に浮かんできそうである。
9曲目「歌は慰め」は恋人に「ねえ、笑って」と呼びかける歌。コミカルなテイストで、スキャットや口笛が楽しげなムードを醸している。
最後を飾るのは「わたしが愛した人」。終わった恋を振り返る歌である。1曲目のように2つのテーマを交互に繰り返し、終盤にさしかかると狂騒的な世界へ。呪文のように繰り返される「JE L'AIMAIS」が耳に残る。
このアルバムで新しいファンを獲得したフランス・ギャルは、そのままベルジェとタッグを組み、多くの傑作を生み出していく。ベートーヴェンの「月光」風のテーマで始まる超名曲「Si, maman, si」を含む『Dancing Disco』(1977年)、「Il jouait du piano debout(彼は立ってピアノを弾いた)」を収録した大ヒット作『PARIS, FRANCE』(1980年)、胸にしみるバラード「Évidemment」が聴けるだけでなく作品全体の完成度も高い『BABACAR』(1987年)などは、単にフランス・ギャルの代表作というより、フレンチ・ポップスの歴史に残るマスターピースというべきだろう。
私生活でも2児の母として幸せな日々を送っていたが、1992年にベルジェが心臓発作で他界。さらに娘が病死、自身も癌に侵される、という不幸に見舞われた。現在は66歳。何年か前には評伝が刊行されて話題になった。
今なお1960年代の「ロリータ・アイドルとしてのフランス・ギャル」が良いという人は沢山いるし、1970年代以降の「ミシェル・ベルジェのミューズとしてのフランス・ギャル」が良いという人もいる。私は両方のフランス・ギャルが好きである。2層のキャリア(どちらも分厚い)を持っているところがこの人の特有性なのだ。
ただ、26歳の時に「愛の告白」という曲があることを知ってからは、専ら『フランス・ギャル』ばかり聴いている。『BABACAR』も勿論良いが、ほどよくシンプルで純度の高いメロディーで編まれた『フランス・ギャル』の方が私の耳には合っているようだ。彼女が「愛の告白」を発表したのも26歳の時だが、こんな些細な偶然も、何かの縁のように勝手に感じている。
【関連サイト】
francegall.net
『フランス・ギャル』
1975年作品
フランス・ギャルは28歳の時に自身の名を冠したアルバム『フランス・ギャル』を発表し、第一線に返り咲いた。プロデューサーは才人ミシェル・ベルジェ。収録された曲のほとんどはベルジェらしい繊細なセンスが光るラヴソングだ。多彩なサウンドやリズムを盛り込みながら、ちぐはぐな印象を全く与えないそのバランス感覚は流石としかいいようがない。楽曲の細部にデリケートなアレンジを施し、フランス・ギャルの女性らしい魅力を引き出している。
フランス・ギャルは1947年10月9日生まれ。本名はイザベル・ギャル。父親は高名な作詞家ロベール・ギャルである。1963年にデビューし、1965年のユーロビジョン・ソング・コンテストでセルジュ・ゲンズブールが書いた「夢見るシャンソン人形」を歌って優勝。ヒット曲を連発して大スターになったのは周知の通り。その時のインパクトがよほど強烈だったのか、日本でのフランス・ギャルのイメージは「1960年代のロリータ・アイドル」で止まっている。ただし、ここまでは彼女のキャリアの「第一部」にすぎない。
1970年前後、アイドルから大人の女性になり、一時低迷していたフランス・ギャルは、ミシェル・ベルジェにプロデュースを依頼。1974年5月リリースの「愛の告白」(原題「LA DECLARATION D'AMOUR」)で評価された。こうして年上の人たちの手を離れ、同い年の音楽家と一緒に作品を作り(2人は恋に落ち、1976年に結婚した)、フランスで人気を取り戻してからが「第二部」である。
新たなスタートを告げる記念碑的作品であり、愛の結晶でもある『フランス・ギャル』は、名曲揃いの贅沢な内容である。フランス・ギャルの歌声には10代の頃の舌足らずな愛らしさが残っているが、何かを演じているような感じはない。ベルジェの詞と音楽に身を委ね、自分の感じたまま素直に歌おうとしている。その感情の脈動が美しい音楽となり、レコードに刻まれている。
1曲目は「新しい愛のはじまり」。性格の異なるメロディーを交互に展開させながら軽快にリズムを刻み、間奏でがらっと雰囲気を変えてみせる。レゲエっぽいアクセントがスパイスになっているのもポイント。歌詞は「私をここから遠くへ連れて行って」という内容で、当時のフランス・ギャルの心象を歌っているかのようだ。ちなみに、「新しい愛のはじまり」というのはアルバムの邦題でもある。
2曲目「今夜は眠れない」はやさしいギターの音色にのせて歌われる耽美的なバラード。「あなたがいないと眠れない」という歌詞で、フランス・ギャルの甘い声によくマッチしている。
3曲目「恋人はどこに」はちょっとアンニュイなラブソング。フランス・ギャルの声に絡みつく翳りのあるメロディーと揺れるリズムが印象的だ。
4曲目「わたしのお家」は多彩なサウンドスケープで魅了するナンバー。歌詞も「この地球は私の家」というスケールの大きな内容。ピアノを主軸にしているが、間奏ではロック色が強くなり、プログレのような様相を呈する。
5曲目「愛の告白」はフランス・ギャルの代表曲のひとつ。神秘的な雰囲気を持つ美しいラヴ・バラードで、語りを効果的にとりいれ、一途な愛を歌う。アレンジもよく練られていて、味わいはさらりとしているが余韻嫋々である。ここまでがA面だ。
6曲目は「サンバ・マンボ」。タイトル通りサンバの風味を盛り込み、電子音でデコレートしたサウンドの中、雲行きの怪しい恋模様が映し出される。
7曲目「ビッグ・ファット・ママ」はベルジェ流ブルースだが、フランス・ギャルの歌唱はあくまでも等身大。変に力むことなく歌詞に肉付けしている。
8曲目「仲良しになれたら」は切ないほど透明感に溢れた曲。雨の景色を眺めつつ、気になる人のことを考えている女性の姿が目に浮かんできそうである。
9曲目「歌は慰め」は恋人に「ねえ、笑って」と呼びかける歌。コミカルなテイストで、スキャットや口笛が楽しげなムードを醸している。
最後を飾るのは「わたしが愛した人」。終わった恋を振り返る歌である。1曲目のように2つのテーマを交互に繰り返し、終盤にさしかかると狂騒的な世界へ。呪文のように繰り返される「JE L'AIMAIS」が耳に残る。
このアルバムで新しいファンを獲得したフランス・ギャルは、そのままベルジェとタッグを組み、多くの傑作を生み出していく。ベートーヴェンの「月光」風のテーマで始まる超名曲「Si, maman, si」を含む『Dancing Disco』(1977年)、「Il jouait du piano debout(彼は立ってピアノを弾いた)」を収録した大ヒット作『PARIS, FRANCE』(1980年)、胸にしみるバラード「Évidemment」が聴けるだけでなく作品全体の完成度も高い『BABACAR』(1987年)などは、単にフランス・ギャルの代表作というより、フレンチ・ポップスの歴史に残るマスターピースというべきだろう。
私生活でも2児の母として幸せな日々を送っていたが、1992年にベルジェが心臓発作で他界。さらに娘が病死、自身も癌に侵される、という不幸に見舞われた。現在は66歳。何年か前には評伝が刊行されて話題になった。
今なお1960年代の「ロリータ・アイドルとしてのフランス・ギャル」が良いという人は沢山いるし、1970年代以降の「ミシェル・ベルジェのミューズとしてのフランス・ギャル」が良いという人もいる。私は両方のフランス・ギャルが好きである。2層のキャリア(どちらも分厚い)を持っているところがこの人の特有性なのだ。
ただ、26歳の時に「愛の告白」という曲があることを知ってからは、専ら『フランス・ギャル』ばかり聴いている。『BABACAR』も勿論良いが、ほどよくシンプルで純度の高いメロディーで編まれた『フランス・ギャル』の方が私の耳には合っているようだ。彼女が「愛の告白」を発表したのも26歳の時だが、こんな些細な偶然も、何かの縁のように勝手に感じている。
(阿部十三)
【関連サイト】
francegall.net
『フランス・ギャル』収録曲
01. 新しい愛のはじまり/02. 今夜は眠れない/03. 恋人はどこに/04. 私のお家/05. 愛の告白/06. サンバ・マンボ/07. ビッグ・ファット・ママ/08. 仲良しになれたら/09. 歌は慰め/10. わたしが愛した人
01. 新しい愛のはじまり/02. 今夜は眠れない/03. 恋人はどこに/04. 私のお家/05. 愛の告白/06. サンバ・マンボ/07. ビッグ・ファット・ママ/08. 仲良しになれたら/09. 歌は慰め/10. わたしが愛した人
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