OMD 『安息の館』
2015.01.15
OMD
『安息の館』
1981年作品
そんなふたりは小学生の頃からの友人で、クラフトワークやノイ!、ブライアン・イーノ、デヴィッド・ボウイをヒーローに掲げてさまざまなバンドで活動。そして初めてOMDとしてステージに立ったのが1978年のことだ。翌年春に早速、あのファクトリー・レーベルからシングル「Electricity」でデビュー。ウルトラヴォックスやヒューマン・リーグやシンプル・マインズほか、同様の音楽的背景に根差したエレクトロニックな冒険者たちに加わって、1980年に2枚のアルバムを送り出した(ファクトリーから発売したのは「Electricity」のみだが、レーベルの専属デザイナーだったピーター・サヴィルが、本作を含めて引き続きアートワークを手掛けている)。
ローファイなファースト『エレクトロニック・ファンタジー』は本人たち曰く「ガレージ・シンセ・パンク」、飛躍的に音質を上げたセカンド『エノラ・ゲイの悲劇』はゴシックなムードを特徴としたが、どちらも好セールスを記録。自信をつけた彼らは『安息の館』に着手するにあたり、ますます大胆不敵なスタンスをとれる環境にあったようで、結果的には、二次元的な前2作品とは比較にならない、壮大でブっ飛んだ作品を完成させている。そもそも「フツウはイヤ」というのが基本アプローチゆえに、ふたりはさまざまなこだわりを持っていた。ラヴソングには興味なし。ギターには可能な限り触れない。お手製の楽器や加工を施したサンプルを積極的に使う。シンバルは使用禁止。ドラムは1種類ずつ別々にトラッキングしてクリーンな音を録音する......。こういったこだわりを維持しつつ、本作では、宗教的な合唱音楽とミリタリーなドラムビートを主要モチーフに選んで、荘厳な美しさとカオス、メロトロンの柔らかな音色と最新のシンセの硬いサウンド、優しいメロディと奇妙なノイズ、ロマンティックな趣とフューチャリスティックな趣を対比。不安と高揚感を同時にかき立てる、実に不思議なバランスを見出した。
また、3分半のアンビエントなイントロを経てやっとアンディの声が聞こえる「Sealand」(タイトルは地元にあった英国空軍の基地に因み、海と陸の狭間というイメージにインスパイアされたそう)が好例で、詞の語数は極端に絞られ、インストゥルメンタルのパートをたっぷり取っているのも本作の特徴だ。よってシンセはヴォーカルと同等に雄弁で、例外的にポールが歌った先行シングル「Souvenir」のように、時にしてシンセのフレーズがサビの役目を果たす。完全インストの表題曲にいたっては、先にタイトルを決めて建築的(architecture)と道徳的(morality)だと感じる音を片っ端から集めて構築したのだとか。
そんな中でもアルバムのセンターピースを選ぶとしたら、まさに荘厳にしてストレンジな、ジャンヌ・ダルクに捧げたふたつのシングル曲ーー頑なに避けてきた「love」という単語を忸怩たる思いで詞に使った「Joan of Arc」と、ワルツのリズムに乗せた「Joan of Arc(Maid of Orleans)」ーーになるのだろう。ツアーでジャンヌと縁の深い町を訪れたことから興味を引かれ、彼女の人生について詳しく調べた上で2曲を綴ったという。思えばジャンヌも、リアリティとファンタジーの間に佇む、純粋さと狂信性を併せ持つ存在だ。
これら2曲にしろ「Souvenir」にしろ、まったくもって異色なポップソングが揃って全英チャートでトップ5入りしたとは驚くべき話なのだが、前述したヒューマン・リーグ然り、ポストパンク期のUKバンドが往々にして、革新性のみならずポップな訴求性も備えていたことはご承知の通り。本作を世界で300万枚を売った彼らは、次の『Dazzle Ships』でラディカルな実験性を思う存分突き詰めて、5作目『Junk Culture』以降は一転、よりポップな路線にシフト。「If You Leave」はその流れの中で生まれたというわけだ。
それからのOMDは、1989年のポールの脱退以降アンディが単身で率いて、1990年代後半に一旦活動を休止するが、再評価の声が高まる中、2006年にオリジナル・メンバーで再始動。最新作『電気仕掛けの英吉利人』(2013年)はクラフトワークを始めとする原点に立ち返り、改めて未来を見据えるような、相変わらず実験欲に溢れた傑作だったことを最後に付け加えておきたい。
【関連サイト】
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『安息の館』
1981年作品
英国リヴァプール出身のアーティストと言うと、今も昔もギターバンドのイメージが圧倒的に強い。ポストパンク期も然りで、エレクトロニック志向のバンドを続々輩出した他の英国北部の都市と違って、エコー&ザ・バニーメンやティアドロップ・エクスプローズが鳴らすギターロックが真っ先に思い出されるが、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク=OMD(O.M.D.とも表記される)は稀少な例外だった。そう、先月取り上げた映画『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(1986年)のサントラに提供したエレクトロ・ラヴソング「If You Leave」の大ヒットで、米国でもブレイクしたポール・ハンフリーズ(キーボード)とアンディ・マクラスキー(ヴォーカル/ギター/ベース)のコンビだ。もっとも「If You Leave」を聴いて、「じゃあ昔のアルバムも聴いてみようか」と気軽に初期の作品を手にとったリスナーの中には、面食らった人も少なくなかったはず。例えば、出世作かつ時代を代表する名盤の1枚とされているこのサード『安息の館(原題:Architecture & Morality)』(全英チャート最高3位)は、火花が散り蒸気が噴き出すかのようなノイズで幕を開け、1曲目に用意されているのは、冷戦時代のテンションを奇妙なダンスポップに切り取った「The New Stone Age」。以下、いずれも奇想天外なサウンドとイメージを迸らせる計9曲が、「世界を変えたい」と真剣に志していた当時21歳と22歳の青年の、恐れを知らない実験をドキュメントしている。
そんなふたりは小学生の頃からの友人で、クラフトワークやノイ!、ブライアン・イーノ、デヴィッド・ボウイをヒーローに掲げてさまざまなバンドで活動。そして初めてOMDとしてステージに立ったのが1978年のことだ。翌年春に早速、あのファクトリー・レーベルからシングル「Electricity」でデビュー。ウルトラヴォックスやヒューマン・リーグやシンプル・マインズほか、同様の音楽的背景に根差したエレクトロニックな冒険者たちに加わって、1980年に2枚のアルバムを送り出した(ファクトリーから発売したのは「Electricity」のみだが、レーベルの専属デザイナーだったピーター・サヴィルが、本作を含めて引き続きアートワークを手掛けている)。
ローファイなファースト『エレクトロニック・ファンタジー』は本人たち曰く「ガレージ・シンセ・パンク」、飛躍的に音質を上げたセカンド『エノラ・ゲイの悲劇』はゴシックなムードを特徴としたが、どちらも好セールスを記録。自信をつけた彼らは『安息の館』に着手するにあたり、ますます大胆不敵なスタンスをとれる環境にあったようで、結果的には、二次元的な前2作品とは比較にならない、壮大でブっ飛んだ作品を完成させている。そもそも「フツウはイヤ」というのが基本アプローチゆえに、ふたりはさまざまなこだわりを持っていた。ラヴソングには興味なし。ギターには可能な限り触れない。お手製の楽器や加工を施したサンプルを積極的に使う。シンバルは使用禁止。ドラムは1種類ずつ別々にトラッキングしてクリーンな音を録音する......。こういったこだわりを維持しつつ、本作では、宗教的な合唱音楽とミリタリーなドラムビートを主要モチーフに選んで、荘厳な美しさとカオス、メロトロンの柔らかな音色と最新のシンセの硬いサウンド、優しいメロディと奇妙なノイズ、ロマンティックな趣とフューチャリスティックな趣を対比。不安と高揚感を同時にかき立てる、実に不思議なバランスを見出した。
また、3分半のアンビエントなイントロを経てやっとアンディの声が聞こえる「Sealand」(タイトルは地元にあった英国空軍の基地に因み、海と陸の狭間というイメージにインスパイアされたそう)が好例で、詞の語数は極端に絞られ、インストゥルメンタルのパートをたっぷり取っているのも本作の特徴だ。よってシンセはヴォーカルと同等に雄弁で、例外的にポールが歌った先行シングル「Souvenir」のように、時にしてシンセのフレーズがサビの役目を果たす。完全インストの表題曲にいたっては、先にタイトルを決めて建築的(architecture)と道徳的(morality)だと感じる音を片っ端から集めて構築したのだとか。
そんな中でもアルバムのセンターピースを選ぶとしたら、まさに荘厳にしてストレンジな、ジャンヌ・ダルクに捧げたふたつのシングル曲ーー頑なに避けてきた「love」という単語を忸怩たる思いで詞に使った「Joan of Arc」と、ワルツのリズムに乗せた「Joan of Arc(Maid of Orleans)」ーーになるのだろう。ツアーでジャンヌと縁の深い町を訪れたことから興味を引かれ、彼女の人生について詳しく調べた上で2曲を綴ったという。思えばジャンヌも、リアリティとファンタジーの間に佇む、純粋さと狂信性を併せ持つ存在だ。
これら2曲にしろ「Souvenir」にしろ、まったくもって異色なポップソングが揃って全英チャートでトップ5入りしたとは驚くべき話なのだが、前述したヒューマン・リーグ然り、ポストパンク期のUKバンドが往々にして、革新性のみならずポップな訴求性も備えていたことはご承知の通り。本作を世界で300万枚を売った彼らは、次の『Dazzle Ships』でラディカルな実験性を思う存分突き詰めて、5作目『Junk Culture』以降は一転、よりポップな路線にシフト。「If You Leave」はその流れの中で生まれたというわけだ。
それからのOMDは、1989年のポールの脱退以降アンディが単身で率いて、1990年代後半に一旦活動を休止するが、再評価の声が高まる中、2006年にオリジナル・メンバーで再始動。最新作『電気仕掛けの英吉利人』(2013年)はクラフトワークを始めとする原点に立ち返り、改めて未来を見据えるような、相変わらず実験欲に溢れた傑作だったことを最後に付け加えておきたい。
(新谷洋子)
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『安息の館』収録曲
01. The New Stone Age/02. She's Leaving/03. Souvenir/04. Sealand/05. Joan Of Arc/06. Joan Of Arc (Maid Of Orleans)/07. Architecture and Morality/08. Georgia/09. The Beginning and The End
01. The New Stone Age/02. She's Leaving/03. Souvenir/04. Sealand/05. Joan Of Arc/06. Joan Of Arc (Maid Of Orleans)/07. Architecture and Morality/08. Georgia/09. The Beginning and The End
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