デュラン・デュラン 『リオ』
2015.02.14
デュラン・デュラン
『リオ』
1982年作品
そもそも彼らは誤解されやすいバンドだった。例えばデビュー当初に「ニュー・ロマンティック」と括られたことも、ひとつのねじれを生んだように思う。というのも、デュラン・デュランの故郷はバーミンガム。1970年代末にジョンとニックを中心にバンドが結成された当時、ニュー・ロマンティックの発信地であるロンドンに比べて、バーミンガムのシーンは非常にロック色が強かったそうで、デュラン・デュランも基本的には、グラムロックにルーツを持つロックンロール・バンドだと筆者は認識している。もちろん他方で彼らはディスコ/ファンクの影響を強く受け、リアルタイムで起きていた英国のエレクトロニック・ポプ革命にもシンパシーを寄せて、ジャパンやウルトラヴォックスを重要なインスピレーション源に挙げてもいたっけ。これら雑多な要素が、コリン・サーストン(トニー・ヴィスコンティの片腕として経験を積んだのちトーク・トークやマガジンの作品を手掛けたUKポストパンクのキーパーソン)がプロデュースした本作に至ってパーフェクトなバランスを確立。ポップ・アルバムとしてもダンス・アルバムとしてもロック・アルバムとしても、文句なく成立している。
そう、まずダンス・アルバムとして成立している所以は、主張は控えめのようで実に細やかなリズムのパターンを敷き詰めるロジャーと、シックのバーニー・トンプソン譲りの太くファンキーなカウンター・メロディを描くジョンの、強力なリズム・セクションにある。かつ、共に多芸なアンディとニックも阿吽の呼吸を誇り、本作はシンセ&ギターのミクスチュアの理想像を突きつけるアルバムとも言えよう。アンディは基本的にはロック志向が強いのだが、いい意味で伝統主義的でテクニカルなプレイヤーだから(これまたシックの)ナイル・ロジャースばりの軽快なカッティングも、いかにもニューウェイヴ/ゴスな繊細なフレーズも巧みにこなし、ニックのほうは、貪欲に最新機材を取り入れて色とりどりのアルペジオで実験するイノベーター。全くタイプは違うというのに、それぞれに曲ごとに音色をシフトさせて絶妙なシンクロ関係をキープする。そしてタイプが違うと言えば、不安定なまま安定している(!)唯一無二のヴォーカル・スタイルと、他愛ないのか深遠なのか判断に迷う独壇場的リリックを駆使する、いたってマイペースなサイモンと、4人の精緻なプレイヤーたちのコントラストも、『リオ』の妙味かもしれない。
そんな彼らは、二大ヒット・シングル(「ハングリー・ライク・ザ・ウルフ」「リオ」)でオハコのロキシー・ミュージックmeetsシック節を提示し、ジョンのフレットレス・ベースにジャパンのミック・カーンの影響が伺える「悪夢の中の孤独」では王道ニューウェイヴを聴かせ、「ラスト・チャンス・オン・ザ・ステアウェイ」では両者が交錯。終盤の2曲のバラード(「セイヴ・ア・プレイヤー」「ザ・ショーファー」)は、のちの名曲「オーディナリー・ワールド」などにも通じるデュラン・デュランならではの美しい「静」と「抑」を表現しており、特に全編エレクトロニックに傾いたフィナーレ「ザ・ショーファー」は、バンド史上最もポエティックな瞬間じゃないだろうか?
そして、ヘルムート・ニュートンへのオマージュを込めた傑作ビデオクリップも忘れてはいけない。「ザ・ショーファー」はシングルカットされなかったものの、ヴィジュアル・コンシャスな彼らは、本作の9の収録曲のうちこの曲を含む6曲のビデオクリップを、ラッセル・マルケイ監督と世界各地で撮影。映像を通じてグラマラスなイメージを前面に押し出し、かつイケメン集団だったがゆえにアイドル視され、音楽的評価を得るまでに時間がかかったことはご存知の通りだ。「リオ」が名盤として広く認知されたのも新世紀に入ってからだが、音楽的な実力とバンド・ケミストリーが伴わなければ、現在まで活動を続けることなど不可能だったはず。それどころか(残念ながらアンディは2006年に再び脱退したものの)デュラン・デュランはここにきて再び黄金期を迎えている。本作と並ぶキャリア最高傑作と呼びたい『All You Need Is Now』(2010年)もさることながら、今年予定されている新作は『All You〜』を手掛けたマーク・ロンソンとナイル・ロジャースが共同プロデュースし、あのジョン・フルシアンテがギターで参加! なんとも強力な布陣を敷いており、あっさり最高傑作を更新してくれそうな予感がしている。
【関連サイト】
Duran Duran
Duran Duran 『Rio』(CD)
『リオ』
1982年作品
いきなり自慢話で申し訳ないが、何を隠そう我が家の『リオ』は、このアルバムを作った5人のメンバーのサイン入りである。約10年前、まさにその黄金期のラインナップーージョン・テイラー(ベース)、ニック・ローズ(キーボード)、アンディ・テイラー(ギター)、ロジャー・テイラー(ドラムス)、サイモン・ル・ボン(ヴォーカル)ーーで活動を再開して来日した折に、ちゃっかりもらったものだ。サインを頼むことは滅多にないけど、デュラン・デュランとなれば話は違った。かつ、アルバム選びにも迷わなかった。そりゃもう、1982年に登場したこのセカンド・アルバムしかないのである。初の全米ナンバーワン・シングルを輩出し(「ハングリー・ライク・ザ・ウルフ」)、アルバム・チャートでも全英2位・全米6位を記録した世界進出作であり、第二次ブリティッシュ・インヴェイジョンの旗手としてのポジションを固めたアルバムなのだから。まあ、5人共遠慮なく黒のマジックでデカデカと名前を書いてくれたので、アイコニックなパトリック・ナーゲルのイラストが台無しになってしまったのだが、ひしめき合う名前を眺めながら耳を傾けていると、なんだか、このアルバムを総括しているような気がしてきた。5人のミュージシャンシップと濃いキャラ、そしてさまざまな異なる音楽性が、全員で綴った完全無欠な楽曲に一致点を見出したアルバムをーー。
そもそも彼らは誤解されやすいバンドだった。例えばデビュー当初に「ニュー・ロマンティック」と括られたことも、ひとつのねじれを生んだように思う。というのも、デュラン・デュランの故郷はバーミンガム。1970年代末にジョンとニックを中心にバンドが結成された当時、ニュー・ロマンティックの発信地であるロンドンに比べて、バーミンガムのシーンは非常にロック色が強かったそうで、デュラン・デュランも基本的には、グラムロックにルーツを持つロックンロール・バンドだと筆者は認識している。もちろん他方で彼らはディスコ/ファンクの影響を強く受け、リアルタイムで起きていた英国のエレクトロニック・ポプ革命にもシンパシーを寄せて、ジャパンやウルトラヴォックスを重要なインスピレーション源に挙げてもいたっけ。これら雑多な要素が、コリン・サーストン(トニー・ヴィスコンティの片腕として経験を積んだのちトーク・トークやマガジンの作品を手掛けたUKポストパンクのキーパーソン)がプロデュースした本作に至ってパーフェクトなバランスを確立。ポップ・アルバムとしてもダンス・アルバムとしてもロック・アルバムとしても、文句なく成立している。
そう、まずダンス・アルバムとして成立している所以は、主張は控えめのようで実に細やかなリズムのパターンを敷き詰めるロジャーと、シックのバーニー・トンプソン譲りの太くファンキーなカウンター・メロディを描くジョンの、強力なリズム・セクションにある。かつ、共に多芸なアンディとニックも阿吽の呼吸を誇り、本作はシンセ&ギターのミクスチュアの理想像を突きつけるアルバムとも言えよう。アンディは基本的にはロック志向が強いのだが、いい意味で伝統主義的でテクニカルなプレイヤーだから(これまたシックの)ナイル・ロジャースばりの軽快なカッティングも、いかにもニューウェイヴ/ゴスな繊細なフレーズも巧みにこなし、ニックのほうは、貪欲に最新機材を取り入れて色とりどりのアルペジオで実験するイノベーター。全くタイプは違うというのに、それぞれに曲ごとに音色をシフトさせて絶妙なシンクロ関係をキープする。そしてタイプが違うと言えば、不安定なまま安定している(!)唯一無二のヴォーカル・スタイルと、他愛ないのか深遠なのか判断に迷う独壇場的リリックを駆使する、いたってマイペースなサイモンと、4人の精緻なプレイヤーたちのコントラストも、『リオ』の妙味かもしれない。
そんな彼らは、二大ヒット・シングル(「ハングリー・ライク・ザ・ウルフ」「リオ」)でオハコのロキシー・ミュージックmeetsシック節を提示し、ジョンのフレットレス・ベースにジャパンのミック・カーンの影響が伺える「悪夢の中の孤独」では王道ニューウェイヴを聴かせ、「ラスト・チャンス・オン・ザ・ステアウェイ」では両者が交錯。終盤の2曲のバラード(「セイヴ・ア・プレイヤー」「ザ・ショーファー」)は、のちの名曲「オーディナリー・ワールド」などにも通じるデュラン・デュランならではの美しい「静」と「抑」を表現しており、特に全編エレクトロニックに傾いたフィナーレ「ザ・ショーファー」は、バンド史上最もポエティックな瞬間じゃないだろうか?
そして、ヘルムート・ニュートンへのオマージュを込めた傑作ビデオクリップも忘れてはいけない。「ザ・ショーファー」はシングルカットされなかったものの、ヴィジュアル・コンシャスな彼らは、本作の9の収録曲のうちこの曲を含む6曲のビデオクリップを、ラッセル・マルケイ監督と世界各地で撮影。映像を通じてグラマラスなイメージを前面に押し出し、かつイケメン集団だったがゆえにアイドル視され、音楽的評価を得るまでに時間がかかったことはご存知の通りだ。「リオ」が名盤として広く認知されたのも新世紀に入ってからだが、音楽的な実力とバンド・ケミストリーが伴わなければ、現在まで活動を続けることなど不可能だったはず。それどころか(残念ながらアンディは2006年に再び脱退したものの)デュラン・デュランはここにきて再び黄金期を迎えている。本作と並ぶキャリア最高傑作と呼びたい『All You Need Is Now』(2010年)もさることながら、今年予定されている新作は『All You〜』を手掛けたマーク・ロンソンとナイル・ロジャースが共同プロデュースし、あのジョン・フルシアンテがギターで参加! なんとも強力な布陣を敷いており、あっさり最高傑作を更新してくれそうな予感がしている。
(新谷洋子)
【関連サイト】
Duran Duran
Duran Duran 『Rio』(CD)
『リオ』収録曲
01. リオ/02. マイ・オウン・ウェイ/03. 悪夢の中の孤独/04. ハングリー・ライク・ザ・ウルフ/05. ホールド・バック・ザ・レイン/06. ニュー・レリジョン/07. ラスト・チャンス・オン・ザ・ステアウェイ/08. セイヴ・ア・プレイヤー/09. ザ・ショーファー
01. リオ/02. マイ・オウン・ウェイ/03. 悪夢の中の孤独/04. ハングリー・ライク・ザ・ウルフ/05. ホールド・バック・ザ・レイン/06. ニュー・レリジョン/07. ラスト・チャンス・オン・ザ・ステアウェイ/08. セイヴ・ア・プレイヤー/09. ザ・ショーファー
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