ジャスティン・ティンバーレイク 『ジャスティファイド』
2018.01.29
ジャスティン・ティンバーレイク
『ジャスティファイド』
2002年作品
米国におけるファースト・ウィーク・セールス(発売後最初の1週間のアルバム売り上げ)の最多記録の2・3位は、同じアーティストが独占している。3位は188万枚を売ったサード『Celebrity』(2001年)、2位は、240万枚を売ってアデルの『25』が登場するまで15年間首位を守ったセカンド『No Strings Attached』(2000年)。つまりイン・シンクだ。何がすごいって、彼らはこれら2枚の上質のポップ・アルバムを立て続けに発表して大ヒットさせたのみならず、メイン・シンガーのひとりジャスティン・ティンバーレイクは、間髪入れずに初のソロ・アルバム『ジャスティファイド』(全米最高2位)を作り上げ、2002年に送り出してまたもや大ヒットさせているのである。
正直言ってデビュー当時のイン・シンクには、歌唱力は申し分なかったものの、個人的にあまり魅力を感じなかった。しかし年を追うごとに曲のクオリティはアップ。ジャスティンとJC・シャゼイのふたりのメンバーが曲作りとプロダクションに参加し始めたことと、それは無関係じゃなかったと思う。そして『No Strings Attached』以降R&B/ヒップホップ色を強めて、ポップに徹していたライバルのバックストリート・ボーイズと自分たちを差別化。殊に、エッジーでファンキーなダンスポップを満載した『Celebrity』には、マスコミが絶賛を浴びせたものだ。
2001年夏に登場した同作で、半数以上の曲にソングライター/プロデューサーとして関わり、いよいよただならぬ才能の持ち主であることを仄めかしたジャスティン。彼は翌年4月までイン・シンクのツアーを行なっていたというのに、『ジャスティファイド』からのファースト・シングル「ライク・アイ・ラヴ・ユー」を8月にお披露目している。従って驚くべきスピードでアルバムを完成させたわけだが、ソウル、ファンク、ディスコ、R&B、ヒップホップ......とブラック・ミュージックへの愛情に貫かれた計13曲の完成度たるや、非の打ち所なし。タイトルも言い得て妙で(「正当性を主張する」の意)、強いてマイナス点を探すなら、これだけの傑作にしてはジャケットにパンチが足りないってことか?
何しろスタッフも豪華だった。大半の曲をプロデュースしたのは、ティンバランドとザ・ネプチューンズ=ファレル・ウィリアムス&チャド・ヒューゴ。R&B/ヒップホップ界を制覇したのち、ロックやポップの世界に活動の場を広げていたザ・ネプチューンズとジャスティンは、『Celebrity』からのヒット・シングル「ガールフレンド」を共作し、ケミストリーは証明済みだった。一方、自身のユニットに加えてミッシー・エリオットやアリーヤとの仕事で飛ぶ鳥を落とす勢いだったティンバランドとは初顔合わせで、本作で意気投合したが、大人気グループの一員とはいえ、20歳の白人シンガーをヒップホップ界の大物プロデューサーが全面的にバックアップするなんて、前代未聞の話だった。
ちなみにイン・シンクでのジャスティンは、JCと交互にリード・ヴォーカルを担当。派手な歌い手であるJCに対し、品があって細やかなニュアンスの表現に長けていたが、そんな彼の声をティンバランドたちは、名人ラリー・ゴールドらがアレンジしたストリングス、ギター、パーカッションなどなど生楽器の割合が高い、洒脱なプロダクションで演出。全員が強く意識していたのは間違いなく、黄金期のスティーヴィー・ワンダーとマイケル・ジャクソンだろう。ほんのりラテン風味の「セニョリータ」や「ライク・アイ・ラヴ・ユー」が、ファルセットも相俟ってマイケル寄りだとしたら、優美な「ナッシン・エルス」や「スティル・オン・マイ・ブレイン」はスティーヴィー寄り。また、コンテンポラリーなR&Bに準じた曲はやっぱりティンバランドの腕の見せ所だ。ジャネット・ジャクソンがバッキング・コーラスを添えた「(アンド・シー・セッド)テイク・ミー・ナウ」然り、「クライ・ミー・ア・リヴァー」然り......。
〈君は僕の太陽だった、僕の大地だった〉と始まるその「クライ・ミー・ア・リヴァー」はご存知、3年の交際の末に破局した、ブリトニー・スピアーズに宛てた曲だとされている。相手の裏切りを糾弾する歌詞の内容は元より、ブリトニーに似た女性を登場させてジャスティンがストーカーじみた男性を演じるPVも物議を醸し、ほかに「スティル・オン・マイ・ブレイン」やブライアン・マックナイトとのコラボが生んだバラード「ネヴァー・アゲイン」も彼女との関係にインスパイアされていると噂されたが、本作は決してブレイクアップ・アルバムではない。むしろ、独身の若者が男女の駆け引きを楽しむ軽いノリが支配的。さすがイン・シンク時代と違って一気にセクシーになったものの、ジャスティンならではの品の良さが、印象をソフトに和らげる。思えばちょうど同じ頃にアルバム『ストリップト』で脱アイドルを試みたクリスティーナ・アギレラの場合は、それまでの彼女との落差が激し過ぎて人々を仰天させた。その点、イン・シンク時代から自分の成長に合わせて音楽を作っていたジャスティンは、実にスマートに脱皮。ファースト・ウィーク・セールスこそ50万枚に満たなかったが、本作は最終的に世界で約1千万枚を売り上げて、グラミー賞では最優秀アルバム賞候補に挙がり、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞を受賞。彼を見る人々の目は一変し、ヒップホップを聴いて育った世代最初のブルーアイド・ソウル・アーティストとして、スピーディーにポジションを固めた感がある。
そしてその後も躓きがない。ソロ活動とイン・シンクでの活動を両立させるという当初の計画は早々に断念し、グループは自然消滅したが、ジャスティンは先を急ぐのではなく、次は役者業に挑戦。これまた評価を着々と勝ち取り、セカンド『フューチャー・セックス/ラヴ・サウンズ』(2006年)を経て、ティンバランドと組んでプロデューサーとしても活躍し、最近サントラのコンポーザー業に乗り出した。若くして成功を手にしたアーティストには道を踏み外す人が少なくない中、スキャンダルはほぼゼロ。2018年2月頭に控える5年ぶりの新作『Man of the Woods』では36歳の家庭人としての自分を前面に押し出しているらしく、アイドルだった過去は遠のくばかり......。この分だと知らないうちに、何ら違和感なくオジサンになっているのだろう。
【関連サイト】
justintimberlake.com
Justin Timberlake 『Justified』(CD)
『ジャスティファイド』
2002年作品
米国におけるファースト・ウィーク・セールス(発売後最初の1週間のアルバム売り上げ)の最多記録の2・3位は、同じアーティストが独占している。3位は188万枚を売ったサード『Celebrity』(2001年)、2位は、240万枚を売ってアデルの『25』が登場するまで15年間首位を守ったセカンド『No Strings Attached』(2000年)。つまりイン・シンクだ。何がすごいって、彼らはこれら2枚の上質のポップ・アルバムを立て続けに発表して大ヒットさせたのみならず、メイン・シンガーのひとりジャスティン・ティンバーレイクは、間髪入れずに初のソロ・アルバム『ジャスティファイド』(全米最高2位)を作り上げ、2002年に送り出してまたもや大ヒットさせているのである。
正直言ってデビュー当時のイン・シンクには、歌唱力は申し分なかったものの、個人的にあまり魅力を感じなかった。しかし年を追うごとに曲のクオリティはアップ。ジャスティンとJC・シャゼイのふたりのメンバーが曲作りとプロダクションに参加し始めたことと、それは無関係じゃなかったと思う。そして『No Strings Attached』以降R&B/ヒップホップ色を強めて、ポップに徹していたライバルのバックストリート・ボーイズと自分たちを差別化。殊に、エッジーでファンキーなダンスポップを満載した『Celebrity』には、マスコミが絶賛を浴びせたものだ。
2001年夏に登場した同作で、半数以上の曲にソングライター/プロデューサーとして関わり、いよいよただならぬ才能の持ち主であることを仄めかしたジャスティン。彼は翌年4月までイン・シンクのツアーを行なっていたというのに、『ジャスティファイド』からのファースト・シングル「ライク・アイ・ラヴ・ユー」を8月にお披露目している。従って驚くべきスピードでアルバムを完成させたわけだが、ソウル、ファンク、ディスコ、R&B、ヒップホップ......とブラック・ミュージックへの愛情に貫かれた計13曲の完成度たるや、非の打ち所なし。タイトルも言い得て妙で(「正当性を主張する」の意)、強いてマイナス点を探すなら、これだけの傑作にしてはジャケットにパンチが足りないってことか?
何しろスタッフも豪華だった。大半の曲をプロデュースしたのは、ティンバランドとザ・ネプチューンズ=ファレル・ウィリアムス&チャド・ヒューゴ。R&B/ヒップホップ界を制覇したのち、ロックやポップの世界に活動の場を広げていたザ・ネプチューンズとジャスティンは、『Celebrity』からのヒット・シングル「ガールフレンド」を共作し、ケミストリーは証明済みだった。一方、自身のユニットに加えてミッシー・エリオットやアリーヤとの仕事で飛ぶ鳥を落とす勢いだったティンバランドとは初顔合わせで、本作で意気投合したが、大人気グループの一員とはいえ、20歳の白人シンガーをヒップホップ界の大物プロデューサーが全面的にバックアップするなんて、前代未聞の話だった。
ちなみにイン・シンクでのジャスティンは、JCと交互にリード・ヴォーカルを担当。派手な歌い手であるJCに対し、品があって細やかなニュアンスの表現に長けていたが、そんな彼の声をティンバランドたちは、名人ラリー・ゴールドらがアレンジしたストリングス、ギター、パーカッションなどなど生楽器の割合が高い、洒脱なプロダクションで演出。全員が強く意識していたのは間違いなく、黄金期のスティーヴィー・ワンダーとマイケル・ジャクソンだろう。ほんのりラテン風味の「セニョリータ」や「ライク・アイ・ラヴ・ユー」が、ファルセットも相俟ってマイケル寄りだとしたら、優美な「ナッシン・エルス」や「スティル・オン・マイ・ブレイン」はスティーヴィー寄り。また、コンテンポラリーなR&Bに準じた曲はやっぱりティンバランドの腕の見せ所だ。ジャネット・ジャクソンがバッキング・コーラスを添えた「(アンド・シー・セッド)テイク・ミー・ナウ」然り、「クライ・ミー・ア・リヴァー」然り......。
〈君は僕の太陽だった、僕の大地だった〉と始まるその「クライ・ミー・ア・リヴァー」はご存知、3年の交際の末に破局した、ブリトニー・スピアーズに宛てた曲だとされている。相手の裏切りを糾弾する歌詞の内容は元より、ブリトニーに似た女性を登場させてジャスティンがストーカーじみた男性を演じるPVも物議を醸し、ほかに「スティル・オン・マイ・ブレイン」やブライアン・マックナイトとのコラボが生んだバラード「ネヴァー・アゲイン」も彼女との関係にインスパイアされていると噂されたが、本作は決してブレイクアップ・アルバムではない。むしろ、独身の若者が男女の駆け引きを楽しむ軽いノリが支配的。さすがイン・シンク時代と違って一気にセクシーになったものの、ジャスティンならではの品の良さが、印象をソフトに和らげる。思えばちょうど同じ頃にアルバム『ストリップト』で脱アイドルを試みたクリスティーナ・アギレラの場合は、それまでの彼女との落差が激し過ぎて人々を仰天させた。その点、イン・シンク時代から自分の成長に合わせて音楽を作っていたジャスティンは、実にスマートに脱皮。ファースト・ウィーク・セールスこそ50万枚に満たなかったが、本作は最終的に世界で約1千万枚を売り上げて、グラミー賞では最優秀アルバム賞候補に挙がり、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞を受賞。彼を見る人々の目は一変し、ヒップホップを聴いて育った世代最初のブルーアイド・ソウル・アーティストとして、スピーディーにポジションを固めた感がある。
そしてその後も躓きがない。ソロ活動とイン・シンクでの活動を両立させるという当初の計画は早々に断念し、グループは自然消滅したが、ジャスティンは先を急ぐのではなく、次は役者業に挑戦。これまた評価を着々と勝ち取り、セカンド『フューチャー・セックス/ラヴ・サウンズ』(2006年)を経て、ティンバランドと組んでプロデューサーとしても活躍し、最近サントラのコンポーザー業に乗り出した。若くして成功を手にしたアーティストには道を踏み外す人が少なくない中、スキャンダルはほぼゼロ。2018年2月頭に控える5年ぶりの新作『Man of the Woods』では36歳の家庭人としての自分を前面に押し出しているらしく、アイドルだった過去は遠のくばかり......。この分だと知らないうちに、何ら違和感なくオジサンになっているのだろう。
(新谷洋子)
【関連サイト】
justintimberlake.com
Justin Timberlake 『Justified』(CD)
『ジャスティファイド』収録曲
01. セニョリータ/02. ライク・アイ・ラヴ・ユー/03. (オー・ノー)ワット・ユー・ガット/04. テイク・イット・フロム・ヒア/05. クライ・ミー・ア・リヴァー/06. ロック・ユア・ボディ/07. ナッシン・エルス/08. ラスト・ナイト/09. スティル・オン・マイ・ブレイン/10. (アンド・シー・セッド)テイク・ミー・ナウ/11. ライト・フォー・ミー/12. レッツ・テイク・ア・ライド/13. ネヴァー・アゲイン
01. セニョリータ/02. ライク・アイ・ラヴ・ユー/03. (オー・ノー)ワット・ユー・ガット/04. テイク・イット・フロム・ヒア/05. クライ・ミー・ア・リヴァー/06. ロック・ユア・ボディ/07. ナッシン・エルス/08. ラスト・ナイト/09. スティル・オン・マイ・ブレイン/10. (アンド・シー・セッド)テイク・ミー・ナウ/11. ライト・フォー・ミー/12. レッツ・テイク・ア・ライド/13. ネヴァー・アゲイン
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