音楽 POP/ROCK

テレヴィジョン 『マーキー・ムーン』

2011.06.24
テレヴィジョン
『マーキー・ムーン』

1977年発表


Television_marquee_moon
 NYパンクの重要バンドの一つ、テレヴィジョンは1973年に結成され、74年からライヴ活動をスタートした。後にリチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズを結成し、ロンドン・パンクに影響を及ぼすリチャード・ヘルがベーシストだった頃は、ガレージ・ロック的な音楽性を持っていたらしいが、徐々にフリージャズの影響を反映したサウンドを模索するようになる。77年2月にリリースされた1stアルバム『マーキー・ムーン』は、そんな彼らのオリジナリティが華麗に開花している1枚だ。

 テレヴィジョンの曲は抜群にエモーショナルだが、決して衝動的ではない。巧みに計算され尽くしたアレンジに裏打ちされている。その持ち味が最も分かりやすく現れているのが、ギターサウンドだ。「コードプレイによるシャープなビートや奥深い響き」×「飄々とした軽快さ、狂おしい昂ぶり、ササクレ立った殺気、効果音的な響き......多彩な風味を醸し出す単音フレーズ」、2本のギターが絶妙に絡み合いながら、曲を活き活きと躍動させてゆく。1stアルバムから挙げるならば、「シー・ノー・イーヴル」「フリクション」といった、ストレートな曲ですら、クレヴァーに構築されたギターアンサンブルが、スリリングなエネルギーを放っている。

 そして、テレヴィジョンのサウンドを語る上で、もう一つ欠かせないのが、先程少し言及したフリージャズ的な要素だ。フリージャズは、テーマを基調としつつも、インプロヴィゼーションを交えて曲を展開させる。そういうフリージャズにも通じる生々しさが封じ込められているのが、『マーキー・ムーン』の表題曲「マーキー・ムーン」だ。この曲は約11分に及ぶ。ロックバンドとしては少々異例なこの長尺で、テレヴィジョンは壮大なドラマを描き上げる。煌びやかなギターフレーズ、淡々と刻まれるビートに彩られ、スウィートでロマンチックなトーンを響かせる前半戦。しかし、テーマが繰り返され、各パートのフレーズが様々な形で交わされる内に、劇的な熱量と光量を帯び始める。雪崩れ込むエンディングの爆発力は、本当に凄まじい。分厚い爆音を鳴らしているわけではないのだが、リスナーの全感覚を根底から揺さぶるような強靭な衝撃を繰り出す。異空間へと飛翔するようなサイケデリックな恍惚も突きつけるこの曲は、NYパンクに咲いた最も美しい花だと言っても過言ではないだろう。

 ビートニク詩人を敬愛するトム・ヴァーラインによる歌詞の高い文学性も、テレヴィジョンの曲の大きな魅力だ。歌詞と対峙しながらイマジネーションを自由に開放し、テレヴィジョンのサウンドへと深く潜ってゆく体験は、何にも代え難い至福のひと時となる。『マーキー・ムーン』は本国のアメリカでも評価されたが、イギリスでより大きな成功を収めた。シングルとしてリリースされた「マーキー・ムーン」は、同国のチャートで30位を記録したという。この追い風を受け、新しいアルバムの制作が77年の末にはスタートし、78年4月に2ndアルバム『アドヴェンチャー』がリリースされた。しかし、この作品はアメリカでもイギリスでもあまり売れなかったどころか、たくさんの酷評を浴びてしまった。そして、同年夏のアメリカツアーを以って、テレヴィジョンは解散......。

このような経緯もあってか、ロック史に於いて『アドヴェンチャー』は駄作として位置づけられている。しかし、その点に関しては、この場で異を唱えておきたい。圧倒的な傑作である『マーキー・ムーン』と較べると、『アドヴェンチャー』が地味で小ぶりであるのは確かだ。とはいえ、この2ndアルバムもなかなか良い。起伏に富んだ展開を経て夢のような陶酔へと連れてゆく「キャリード・アウェイ」、狂おしいメロディを過剰なまでに高鳴らせる「ザ・ファイア」、浅い眠りのような白々としたまどろみを漂う「ザ・ドリームズ・ドリーム」など、印象に残る美しい曲がある。個人的な体験を語ることになるが......雑誌編集者だった会社員時代、深夜作業の末にヘトヘトで迎えた明け方に、「キャリード・アウェイ」「ザ・ファイア」「ザ・ドリームズ・ドリーム」が、やたらと胸にヒリヒリ沁みた。忘れられない曲達だ。『マーキー・ムーン』共々、『アドヴェンチャー』も多少は評価されるようになると、テレヴィジョンも浮かばれるのではないだろうか。

 テレヴィジョンは92年に再結成。翌年に再び活動を休止したものの、01年にまた活動を再開した。僕は03年9月のSHIBUYA-AX公演を観に行ったのだが、非常にがっかりしたことを告白しておこう。胸に迫る豊かな質感、エモーションは、ステージ上で全く形成されなかった。周囲の観客は、演奏された名曲の数々に大喜びだったが......。「しなびたキュウリみたいだったよ」という感想を友人に漏らしたことを覚えている。とはいえ、77年、78年の時点でのテレヴィジョンが輝いていたのは、誰にも否定出来ない事実だ。『マーキー・ムーン』は、これからも世界中の音楽ファンを魅了するだろう。
(田中大)


【関連サイト】
TELEVISION(CD)
『マーキー・ムーン』収録曲
01. シー・ノー・イーヴル/02. ヴィーナス/03. フリクション/04. マーキー・ムーン/05. エレヴェイション/06. ガイディング・ライト/07. プルーヴ・イット/08. 引き裂かれたカーテン

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