音楽 POP/ROCK

ステップス 『ゴールド グレイテスト・ヒッツ』

2021.02.25
ステップス
『ゴールド グレイテスト・ヒッツ』
2001年作品


steps j1
 アバという究極にして絶好のプロトタイプがあるというのに、ガールズ&ボーイズ・ミックスのポップ・グループが少ないのは、逆に、何をやってもアバには勝てないし、模倣だと思われかねないからか? 彼らの地元スウェーデンでさえ、1990年代初めに一世を風靡したエイス・オブ・ベイスを輩出したのみで、唯一アバのDNAが細々と継承されているのが、英国のポップ界である。1980年代には兄弟姉妹グループの5スターや、アバと同じくユーロヴィジョン・ソング・コンテストで優勝したバックス・フィズが活躍。その後、ボーイズ・グループとガールズ・グループが席巻した1990年代を経て、2000年代初めにかけて再び、S Club 7やヒア・セイやリバティXが出現してヒットを放ったものだが、最後に残るのがステップスだと予期していた人は、決して多くなかったんじゃないだろうか。

 なぜって、例えばS Club 7の仕掛け人はスパイス・ガールズを成功に導いた大物マネージャーのサイモン・フラーだったり、リバティXやヒア・セイは人気のオーディション番組出身だったり、それなりの後ろ盾があって大きな期待を背負っていたけど、ステップスは違った。特段実績のないソングライター(バリー・アプトンとスティーヴ・クロスビー)とひとりのマネージャー(ティム・バーン)が、ショウビズ業界紙『The Stage』にポップ・グループのメンバーを募る広告を掲載。これに応募してオーディションで選ばれたのが、歌とダンスを得意とする20歳前後の男女5人ーークレア・リチャーズ、リサ・スコット・リー、フェイ・トーザー、Hことイアン・ワトキンス、リー・ラッチフォード・エヴァンスーーだった。

 つまり、ステップスは期待を背負っていたとは言い難かったのに、1997年秋に登場したファースト・シングル「5,6,7,8」で早速全英チャート最高14位を記録。以後14枚のシングルが連続でトップ5にチャートインするという、前代未聞の記録を叩き出したのである。彼らにとって初のベスト盤にあたる本作『Gold:Greatest Hits』(2001年/全英最高1位)は、それら14枚をほぼ全て網羅する、計20曲を収録(日本盤は一部収録曲が異なる)。タイトルは世界で3千万枚が売れているアバのベスト盤のパクリだが、確信犯的で許せてしまう。

 そんな文字通りのグレーテスト・ヒッツにおいても、まずは、10曲目にこっそり忍ばせている「5,6,7,8」に触れないことには、ステップスは語れない。カントリー×テクノ×ラインダンスというバッドテイストを極めたこの曲は、バリーとスティーヴがメンバーを集める前から用意していたもので、5人はデモを録音してレーベルに売り込む。しかし片っ端から断られ、さすがの眼力というか、あのPWLのピート・ウォーターマンだけが首を縦に振ったという。そして彼は自身のレーベルにステップスを契約し、「5,6,7,8」のテンポを上げてリーのラップを加えて、カントリーなのに砂浜でラインダンスを披露するPVを添えて世に送り出した。その時にピートが、「覚醒剤でキメたアバ」とステップスを形容したとの伝説がある。

 一発屋のキワモノ的な匂いがプンプンする「5,6,7,8」には本人たちも疑問を抱いたらしいが(長年ライヴで歌わなかったそうだ)、5人はピートと密にコラボしながら活動を続行し、まさにアバエスクな傑作サード・シングル「ワン・フォー・ソロウ」で本格的にブレイク。1998年の『ステップ・ワン』(全英最高2位)、1999年の『ステップタキュラー』(同1位)、2000年の『バズ』(同4位)の3枚のアルバムを続けざまに大ヒットさせる。成功の理由は単純、ハイ・クオリティでアップビートなユーロダンスの楽曲をじゃんじゃん作り出すピートと、必ずしも美男美女集団ではなくて、キャラは親しみやすく、でもとことんプロフェッショナルにエンターテインしてくれる5人が生む、ポップ・マジックにほかならない。男女のメンバーがいるからといってデュエットで歌うわけでもなく、伸びやかで澄んだ声のクレアと、少し癖がある深い声のフェイを中心に女性陣がヴォーカル面をリード。そこに男性陣の声を加えることでボトムを引き締め、たまにHはソロも担当し、リーは振付を手掛けてダンス面でグループを引っ張る。そのダンスをたっぷり盛り込んだバカバカしいPVを含めて、金太郎飴だと言われればそうかもしれない。それでも楽しいものは楽しいし、中でもキャッチーなシングル曲が並ぶ本作を聴き終えた時には、もはやシュガー・ハイ状態だ。

 また多彩なカヴァーもステップスのウリで、初のナンバーワンをもたらしたビー・ジーズの「哀愁のトラジディ」もダイアナ・ロスの「チェイン・リアクション」も、しっかり「覚醒剤でキメたアバ」化されている。バナナラマの「ラスト・シング・オン・マイ・マインド」とカイリー・ミノーグの「悪魔に抱かれて」の場合は、原曲をプロデュースしたのはピートだから、セルフ・カヴァーになるのだろうか? 「ラスト・シング〜」にはサンバ風のパーカッションを華々しく盛って曲を刷新しているが、後者はほとんどカラオケだ。

 それでも、『バズ』になるとメンバーも曲作りに参加し、ピートのチーム以外のプロデューサーを交えてレコーディングされたせいか、音に変化が表れていた。ここでは「ストンプ」や「ヒア・アンド・ナウ」が『バズ』を代表しているが、前者は洒脱なディスコに仕立てられ、後者は当時主流になりつつあったスウェーデン由来のエレクトロ・ポップに接近し、本作からシングルカットされた新曲「ワーズ・アー・ノット・イナフ」はオーガニックなサウンドに彩られている。

 こうして新世紀の到来に伴いユーロダンスから脱皮し始めた5人だが、変身し終える前に呆気なく解散してしまったのは、本作のリリースから僅か2カ月後。メンバーの不仲説が報じられていたから、さほど驚きもなく受け止められたと記憶している。それからも、Hとフェイはミュージカル俳優として活躍したり、みんなショウビズ界に留まってはいたけど、ソロのポップスターは生まれずじまい。結局11年になってステップスは復活し、さらに3枚のアルバムを発表して、2020年の最新作『What the Future Holds』は全英チャート最高2位を獲得。相変わらずバリバリ歌って踊って、アリーナを一杯にしてツアーを行なっている。金太郎飴であろうと良質のポップ・ソングに時効はないし、レディオヘッドが何組いても、ステップスの形をした穴は埋められないのである。

 最後に余談だが、2021年に入ってHが、BBCラジオのウェールズ局で『Friday Night H』なる番組をスタート。毎週2時間半にわたって主に1980〜90年代の作品を中心に、まさに良質のポップ・ソングをかけまくっている。それこそアバからブラック・ボックス、マドンナにカイリー、ペット・ショップ・ボーイズに至るまで。たまに聴こえるステップスの曲もそんなラインナップにしっかり馴染んでいて、彼が心底ポップを愛していることを思い知らされるし、だからステップスの曲には説得力があるのだと分かった気がする。
(新谷洋子)


【関連サイト】
STEPS
STEPS(YouTube)
『ゴールド グレイテスト・ヒッツ』収録曲
01. Tragedy/02. One For Sorrow/03. Stomp/04. Better Best Forgotten/05. Loves Got a Hold on My Heart/06. Deeper Shade of Blue/07. Last Thing on My Mind/08. Better the Devil You Know/09. Summer of Love/10. 5,6,7,8/11. Chain Reaction/12. Baby Dont Dance/13. Its the Way You Make Me Feel/14. After the Love Has Gone/15. Here and Now/16. Say Youll Be Mine/17. Only in My Dreams/18. Words Are Not Enough/19. When I Said Goodbye/20. Heartbeat

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