ダムド 『地獄に堕ちた野郎ども』
2012.03.08
ダムド
『地獄に堕ちた野郎ども』
1977年作品
ロンドン・パンクの中で初めてシングルを出したバンドは、実のところダムドだった。ロンドン・パンクで初めてアルバムを出したのも、ダムドだった。それがこの『地獄に堕ちた野郎ども』なのだ。
セックス・ピストルズ、クラッシュ、ダムドがロンドン・パンクの3大バンドとされるが、ある意味ダムドは音楽以外でセンセーショナルなことはあまりしなかった。「アナーキー!」だとか「暴動を起こせ!」だとか歌わなかった。てめぇら自身がパンクなんだから、ダムドにはパンクであるための大義名分とか言い訳なんてものはいらなかったのだ。音だけでもうパンクだった。たとえばファースト・アルバムを比べると、セックス・ピストルズみたいに分厚く塗り固められた音ではなく、かといってクラッシュみたいなガレージ・サウンドでもなかった。一番ぶっこわれているチンピラ・サウンドがダムドだった。
『地獄に堕ちた野郎ども』が歴史的な傑作に仕上がったのは、プロデューサー、ニック・ロウの手腕によるところも大きいだろう。パンク・ムーヴメントの下地になったパブ・ロック界隈の大物であるニックが手掛けたことは、当時のイギリスのシーンの流れを感じさせる。だがニックがプロデュースすることになったのは、当時ダムドが所属していたスティッフ・レコード専属プロデューサーだったからだ。つまり、偶然そこにニックがいただけの話なのだが、必然的な結びつきとしかいいようがない。ニックはダムドの〈やんちゃなエナジー〉を生のまんま真空パックしたのだ。
裏ジャケットの端っこには、さりげなく「低いヴォリュームで聴いてもデカイ音で再生されるようになっている(Made to be played loud at low volume.)」という但し書きがある。これ、ハッタリでも何でもなく、事実なのだ。この音、何の遠慮もしていない。深夜にこのアルバムをスピーカーから聴こうとする時は注意が必要なのだ。この異様な音作り、ほとんど奇跡だし、この世のものとは思えぬ宇宙的空間に突入したかと錯覚させる凄まじさだ。
けど、むろん、ダムド自身のブッ飛んだ天才的センスがあってこそ、このパンクのマスターピースが出来上がったのだ。いい加減に見えて、その逆。テクニックがないというのともちょっと違う。要は、楽譜をなぞるみたいなプレイなんかしちゃいないのだ。『地獄に堕ちた野郎ども』の曲をこの通りにコピーすることは誰にも出来ない。天然に勝るものは無しってこと。音そのものが素行不良。音がどこへ飛んでいくわかんないスリル、それこそがパンクってもんだろーが。
パンク・ロック史上に残る名イントロと言い切れる1曲目の「ニート・ニート・ニート」は、日本で最初に発売された時には「嵐のロックンロール」って邦題がついていた。原題とは違うんだが、音がまさにそのまんま。ほかの曲だってまさに嵐のロックンロールだ。とにかく音の竜巻がフル回転なんである。ビリビリ全身しびれさせる感電ギター。ブンブンうなりまくるベース。スティックの破片とシンバルが飛んできそうな勢いのコマネズミみたいなドラム。それでいて、ヴォーカルを筆頭にクールな感性で貫かれているのが恐ろしい。
人によっては、「パンクって何?」ってきくと「反逆」という言葉が返ってくるもんだ。それはあながち間違っていないが、パンクってのはそれだけじゃないのだ。もともと「パンク」とは「くだらないもの、たわごと、青二才、若僧、チンピラ、腰抜け」って意味である。それって『地獄に堕ちた野郎ども』のダムドのサウンドのことじゃないか。ダムドは怒っているわけではない。ケタケタゲラゲラ笑っているのだ。世の中のくだらねーもんを嘲り笑っているみたいな音でもあるし、自分らを笑い飛ばしているような音でもある。やってらんねーよっていうワケわかんない感覚を、ダムドは音でやっちまった。あまりにメチャクチャすぎて聴いてる方だって笑っちゃうほどなのだ。
けど、ダムドは乱痴気騒ぎをやっているだけじゃない。シャープにキメるところはビシッとキメるし、ブッ飛ばした後は思いっきり切なかったりもするし、しっとり艶っぽく迫ったりもするのだ。歌詞も、スリリングでカッコいい映画のシーンみたいなものばかり並んでいるし、女の子だってガンガン登場してくる。妙にポーズをつけて悪ぶったりはしないわけ。
ジャケットを見ても、ダムドのハチャメチャなアティテュードがわかろうってもんだ。表ジャケットの愛すべき大バカぶりは、ダムドの肝である。キャプテン・センシブルのこの色縁サングラスは、パンク・ファッションの定番にもなった。裏ジャケットを見ると、メンバーみんな格好がバラバラ。スタイルなんかクソ食らえ。ドラムのラット・スキャビーズはよくわからないが、ヴォーカルのデイヴ・ヴァニアンはブラック・スーツを着込んだドラキュラだし、ギターのブライアン・ジェイムスは胸のはだけたロッカーだし、ベースのキャプテン・センシブルに至ってはもうコスプレの先駆者だ。
アルバムは、パンクのゴッドファーザー、イギー・ポップがやっていたバンド、ザ・ストゥージズの「1970」のカヴァーにトドメを刺す。当時から目のつけどころが鋭かったわけで、しかも音の火花飛び散るヴァージョンでやってのけた。おまけに「アイ・フィール・オールライト」っていう風にタイトルを変えちまった傍若無人ぶり。全てをデストロイする自爆フィナーレ。まさに気分サイコーだ。
【関連サイト】
ダムド
ダムド(CD)
『地獄に堕ちた野郎ども』
1977年作品
1970年代にニューヨークで始まったパンク・ムーヴメントは、まもなくイギリスでも吹き荒れた。その中核を担っていたのは、セックス・ピストルズ、クラッシュ、そしてダムドだった。しかもダムドは1976年の結成以来、無数の活動停止とメンバーチェンジを繰り返しながらも、あらゆる意味でいまだ健在。2001年には『Grave Disorder』を、2008年には『So, Who's Paranoid?』をリリースしている。
ロンドン・パンクの中で初めてシングルを出したバンドは、実のところダムドだった。ロンドン・パンクで初めてアルバムを出したのも、ダムドだった。それがこの『地獄に堕ちた野郎ども』なのだ。
セックス・ピストルズ、クラッシュ、ダムドがロンドン・パンクの3大バンドとされるが、ある意味ダムドは音楽以外でセンセーショナルなことはあまりしなかった。「アナーキー!」だとか「暴動を起こせ!」だとか歌わなかった。てめぇら自身がパンクなんだから、ダムドにはパンクであるための大義名分とか言い訳なんてものはいらなかったのだ。音だけでもうパンクだった。たとえばファースト・アルバムを比べると、セックス・ピストルズみたいに分厚く塗り固められた音ではなく、かといってクラッシュみたいなガレージ・サウンドでもなかった。一番ぶっこわれているチンピラ・サウンドがダムドだった。
『地獄に堕ちた野郎ども』が歴史的な傑作に仕上がったのは、プロデューサー、ニック・ロウの手腕によるところも大きいだろう。パンク・ムーヴメントの下地になったパブ・ロック界隈の大物であるニックが手掛けたことは、当時のイギリスのシーンの流れを感じさせる。だがニックがプロデュースすることになったのは、当時ダムドが所属していたスティッフ・レコード専属プロデューサーだったからだ。つまり、偶然そこにニックがいただけの話なのだが、必然的な結びつきとしかいいようがない。ニックはダムドの〈やんちゃなエナジー〉を生のまんま真空パックしたのだ。
裏ジャケットの端っこには、さりげなく「低いヴォリュームで聴いてもデカイ音で再生されるようになっている(Made to be played loud at low volume.)」という但し書きがある。これ、ハッタリでも何でもなく、事実なのだ。この音、何の遠慮もしていない。深夜にこのアルバムをスピーカーから聴こうとする時は注意が必要なのだ。この異様な音作り、ほとんど奇跡だし、この世のものとは思えぬ宇宙的空間に突入したかと錯覚させる凄まじさだ。
けど、むろん、ダムド自身のブッ飛んだ天才的センスがあってこそ、このパンクのマスターピースが出来上がったのだ。いい加減に見えて、その逆。テクニックがないというのともちょっと違う。要は、楽譜をなぞるみたいなプレイなんかしちゃいないのだ。『地獄に堕ちた野郎ども』の曲をこの通りにコピーすることは誰にも出来ない。天然に勝るものは無しってこと。音そのものが素行不良。音がどこへ飛んでいくわかんないスリル、それこそがパンクってもんだろーが。
パンク・ロック史上に残る名イントロと言い切れる1曲目の「ニート・ニート・ニート」は、日本で最初に発売された時には「嵐のロックンロール」って邦題がついていた。原題とは違うんだが、音がまさにそのまんま。ほかの曲だってまさに嵐のロックンロールだ。とにかく音の竜巻がフル回転なんである。ビリビリ全身しびれさせる感電ギター。ブンブンうなりまくるベース。スティックの破片とシンバルが飛んできそうな勢いのコマネズミみたいなドラム。それでいて、ヴォーカルを筆頭にクールな感性で貫かれているのが恐ろしい。
人によっては、「パンクって何?」ってきくと「反逆」という言葉が返ってくるもんだ。それはあながち間違っていないが、パンクってのはそれだけじゃないのだ。もともと「パンク」とは「くだらないもの、たわごと、青二才、若僧、チンピラ、腰抜け」って意味である。それって『地獄に堕ちた野郎ども』のダムドのサウンドのことじゃないか。ダムドは怒っているわけではない。ケタケタゲラゲラ笑っているのだ。世の中のくだらねーもんを嘲り笑っているみたいな音でもあるし、自分らを笑い飛ばしているような音でもある。やってらんねーよっていうワケわかんない感覚を、ダムドは音でやっちまった。あまりにメチャクチャすぎて聴いてる方だって笑っちゃうほどなのだ。
けど、ダムドは乱痴気騒ぎをやっているだけじゃない。シャープにキメるところはビシッとキメるし、ブッ飛ばした後は思いっきり切なかったりもするし、しっとり艶っぽく迫ったりもするのだ。歌詞も、スリリングでカッコいい映画のシーンみたいなものばかり並んでいるし、女の子だってガンガン登場してくる。妙にポーズをつけて悪ぶったりはしないわけ。
ジャケットを見ても、ダムドのハチャメチャなアティテュードがわかろうってもんだ。表ジャケットの愛すべき大バカぶりは、ダムドの肝である。キャプテン・センシブルのこの色縁サングラスは、パンク・ファッションの定番にもなった。裏ジャケットを見ると、メンバーみんな格好がバラバラ。スタイルなんかクソ食らえ。ドラムのラット・スキャビーズはよくわからないが、ヴォーカルのデイヴ・ヴァニアンはブラック・スーツを着込んだドラキュラだし、ギターのブライアン・ジェイムスは胸のはだけたロッカーだし、ベースのキャプテン・センシブルに至ってはもうコスプレの先駆者だ。
アルバムは、パンクのゴッドファーザー、イギー・ポップがやっていたバンド、ザ・ストゥージズの「1970」のカヴァーにトドメを刺す。当時から目のつけどころが鋭かったわけで、しかも音の火花飛び散るヴァージョンでやってのけた。おまけに「アイ・フィール・オールライト」っていう風にタイトルを変えちまった傍若無人ぶり。全てをデストロイする自爆フィナーレ。まさに気分サイコーだ。
(行川和彦)
【関連サイト】
ダムド
ダムド(CD)
『地獄に堕ちた野郎ども』収録曲
01. ニート・ニート・ニート/02. ファン・クラブ/03. アイ・フォール/04. ボーン・トゥ・キル/05. スタッブ・ユア・バック/06. フィール・ザ・ペイン/07. ニュー・ローズ/08. フィッシュ/09. シー・ハー・トゥナイト/10. ワン・オブ・ザ・ツー/11. ソー・メスト・アップ/12. アイ・フィール・オールライト
01. ニート・ニート・ニート/02. ファン・クラブ/03. アイ・フォール/04. ボーン・トゥ・キル/05. スタッブ・ユア・バック/06. フィール・ザ・ペイン/07. ニュー・ローズ/08. フィッシュ/09. シー・ハー・トゥナイト/10. ワン・オブ・ザ・ツー/11. ソー・メスト・アップ/12. アイ・フィール・オールライト
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