アフガン・ウィッグス 『ジェントルメン』
2012.04.01
アフガン・ウィッグス
『ジェントルメン』
1993年作品
彼らの場合、違うのは出身地だけではなく、音楽的DNAも然り。SUB POPから発表したEP「Uptown Avondale」(1992年)でシュープリームスやアル・グリーンの曲をカバーしていたことが物語る通り、ロック全般のみならずファンクやソウルなどブラック・ミュージックに多大な影響を受けていた。中でもメイン・ソングライターでありプロデュースも手掛けたグレッグは、スライ・ストーンやプリンスやビリー・ホリデイを敬愛するだけに、ヴォーカル・スタイルは独特。野放図でダーティーで粘っこくて、時にシアトリカルな向きもあり、実にクセの強い歌い手だ。そこに、声に劣らずダーティーなギターワーク、ファンキーかつパンチが効いたジョン・カーリー(ベース)&スティーヴ・アール(ドラムス)のリズム・セクションが絡み、本作に至ってそんなアンサンブルをスケール感あるロックンロールに昇華させて、バイオレントでセクシュアルで、タールのようにドス黒くドロドロとした世界を形作っている。
というのも『ジェントルメン』は、グレッグ自身と一人の女性の関係の破局を題材にした、ブレイクアップ・アルバムの一種。女性を欺き、裏切って、恋愛関係を歪めてゆく男の姿を赤裸々に描く。しかも、嘘をつきまくっているうちにそれが真実だと信じ込んでしまうほどにタチが悪い。早い話が徹底したロクデナシのメロドラマであり、一番有名な〈セリフ〉といえば、「Be Sweet」の〈紳士・淑女のみなさん/自己紹介しよう/俺は脳ミソがあるべき場所にペニスが生えてる男さ〉とのイントロダクションだ。「Debonair」で〈今夜俺は地獄に落ちる/お前にしたことを償うために〉と罪の意識に苦悩している素振りを見せながら、「When We Two Parted」では〈もし俺が苦痛を与えたとしたら/慰めてやれるのも俺だけ〉と開き直り、「My Curse」では〈優しく呪いの言葉を囁いてくれ/そしてお前の愛で苦しめてくれ〉と訴えてみたりもする。つまり〈紳士〉というタイトルは完全なるパラドックスであり、女性差別的と非難されることさえあったが、そうやって男の愚かさと弱さをさらけ出し、甘えてもみせるグレッグに惹かれずにはいられないーーという女性は、筆者だけではなかったはず。まさにそういうデンジャラスさが、硬派な清貧志向が強かったグランジ/オルタナティヴ期において強烈に異彩を放っていたと思うのだ。
それに、彼らがぶっちゃけ、期待されたほど爆発的にブレイクしなかったのもまた、少々変わり種だったからに違いない。『ジェントルメン』を経てさらに2枚の名盤をリリースしたのち、ウィッグスが解散してからのグレッグは、元々課外プロジェクトとして始めたトワイライト・シンガーズとザ・ガター・ツインズの2バンドで精力的に活動を続けているが、〈黄昏時の歌い手たち〉と〈ドン底の双子〉なる名前が示す通り、ダークサイドを歩きたがる嗜好は相変わらず。2003年にインタヴューした際に、「俺は変人のマザーファッカー」とうれしげにのたまっていたくらいだから、この先もロクデナシ道を貫くつもりなんだろう。
【関連サイト】
アフガン・ウィッグス『ジェントルメン』(CD)
『ジェントルメン』
1993年作品
グランジ・ソウルーー? 水と油、とまで言わなくとも、並んでいると奇異に感じられるふたつの言葉が、なんの矛盾もなく同居しているバンド。約10年ぶりに再結成して話題を集めているアフガン・ウィッグスは、そういう異色の存在だ。ご存知、サウンドガーデンやマッドハニーやニルヴァーナらをシアトルから世界に送り出したグランジ発信源=SUB POPレーベルが、地元圏外から初めて契約したバンドとして有名なウィッグスは、米国中西部のオハイオ州シンシナティで1986年に誕生した4人組。ヴォーカルのグレッグ・デュリとギターのリック・マッコラムが獄中で出会ったというフィクショナルな出自を自ら流布していたが、当時メンバーはみんなシンシナティ大学の学生だった。そして、他のSUB POP所属バンドと同様に、90年代前半のグランジ/オルタナティヴ・ムーヴメントの上昇気流に乗って人気を集めて、順当にメジャー・レーベルに移籍。ELEKTRA移籍第1弾にして最大のヒット作、かつ筆者が最高傑作と位置付けているのが、4枚目の『ジェントルメン』(1993年)である。
彼らの場合、違うのは出身地だけではなく、音楽的DNAも然り。SUB POPから発表したEP「Uptown Avondale」(1992年)でシュープリームスやアル・グリーンの曲をカバーしていたことが物語る通り、ロック全般のみならずファンクやソウルなどブラック・ミュージックに多大な影響を受けていた。中でもメイン・ソングライターでありプロデュースも手掛けたグレッグは、スライ・ストーンやプリンスやビリー・ホリデイを敬愛するだけに、ヴォーカル・スタイルは独特。野放図でダーティーで粘っこくて、時にシアトリカルな向きもあり、実にクセの強い歌い手だ。そこに、声に劣らずダーティーなギターワーク、ファンキーかつパンチが効いたジョン・カーリー(ベース)&スティーヴ・アール(ドラムス)のリズム・セクションが絡み、本作に至ってそんなアンサンブルをスケール感あるロックンロールに昇華させて、バイオレントでセクシュアルで、タールのようにドス黒くドロドロとした世界を形作っている。
というのも『ジェントルメン』は、グレッグ自身と一人の女性の関係の破局を題材にした、ブレイクアップ・アルバムの一種。女性を欺き、裏切って、恋愛関係を歪めてゆく男の姿を赤裸々に描く。しかも、嘘をつきまくっているうちにそれが真実だと信じ込んでしまうほどにタチが悪い。早い話が徹底したロクデナシのメロドラマであり、一番有名な〈セリフ〉といえば、「Be Sweet」の〈紳士・淑女のみなさん/自己紹介しよう/俺は脳ミソがあるべき場所にペニスが生えてる男さ〉とのイントロダクションだ。「Debonair」で〈今夜俺は地獄に落ちる/お前にしたことを償うために〉と罪の意識に苦悩している素振りを見せながら、「When We Two Parted」では〈もし俺が苦痛を与えたとしたら/慰めてやれるのも俺だけ〉と開き直り、「My Curse」では〈優しく呪いの言葉を囁いてくれ/そしてお前の愛で苦しめてくれ〉と訴えてみたりもする。つまり〈紳士〉というタイトルは完全なるパラドックスであり、女性差別的と非難されることさえあったが、そうやって男の愚かさと弱さをさらけ出し、甘えてもみせるグレッグに惹かれずにはいられないーーという女性は、筆者だけではなかったはず。まさにそういうデンジャラスさが、硬派な清貧志向が強かったグランジ/オルタナティヴ期において強烈に異彩を放っていたと思うのだ。
それに、彼らがぶっちゃけ、期待されたほど爆発的にブレイクしなかったのもまた、少々変わり種だったからに違いない。『ジェントルメン』を経てさらに2枚の名盤をリリースしたのち、ウィッグスが解散してからのグレッグは、元々課外プロジェクトとして始めたトワイライト・シンガーズとザ・ガター・ツインズの2バンドで精力的に活動を続けているが、〈黄昏時の歌い手たち〉と〈ドン底の双子〉なる名前が示す通り、ダークサイドを歩きたがる嗜好は相変わらず。2003年にインタヴューした際に、「俺は変人のマザーファッカー」とうれしげにのたまっていたくらいだから、この先もロクデナシ道を貫くつもりなんだろう。
(新谷洋子)
【関連サイト】
アフガン・ウィッグス『ジェントルメン』(CD)
『ジェントルメン』収録曲
01. If I Were Going/02. Gentlemen/03. Be Sweet/04. Debonair/05. When We Two Parted/06. Fountain and Fairfax/07. What Jail Is Like/08. My Curse/09. Now You Know/10. I Keep Coming Back/11. Brother Woodrow/Closing Prayer
01. If I Were Going/02. Gentlemen/03. Be Sweet/04. Debonair/05. When We Two Parted/06. Fountain and Fairfax/07. What Jail Is Like/08. My Curse/09. Now You Know/10. I Keep Coming Back/11. Brother Woodrow/Closing Prayer
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